2015年11月5日木曜日

東日本大震災被災地 訪問記

被災地の復興に公的支援を
理事 白岩 一心


協会は9月20日〜22日に東日本大震災被災地訪問を実施。白岩一心理事、松岡泰夫評議員、広川恵一顧問、林功先生が、宮城県気仙沼市、岩手県一関市、福島県飯舘村・南相馬市の仮設住宅や医療機関などを訪問した。白岩理事のレポートを紹介する。


 気仙沼市の仮設住宅で、自治会長・民生委員の小野道子さん、医療福祉ボランティアの村上充さんと懇談した。劣悪な仮設住宅の現状をうかがい、仮設住宅の住民の間で復興公営住宅への移行をどうするかという問題などがあると知った。
 また、復興公営住宅で、津波で汚染され、塩分を含んだ土地を整備しないまま、その上に建設したのではないかと思われる事例があると知った。
 住民は、慢性疾患を抱えていても、病院までの交通の便が悪く、交通費や医療費負担が不安で、なかなか受診されない。私の町では、病院に通えない方々のためにタクシー券を配布している。行政が被災者を把握しきれていないのでないかと思う。被災者の方々の孤立、家族の分断、行き届かない行政の医療福祉対策にもどかしさを感じた。
 株式会社「きくちまさこ」代表で、訪問看護ステーションを設立した菊地優子さんとも懇談した。365日休むことなく、重症患者さんに訪問看護を行う熱い思いと行動力に、驚いた。
 気仙沼市の漁業では、漁獲量は震災前に戻っていると報道されるが、実際は他府県の漁船が入港していて、気仙沼市の漁業組合の収入は、震災前の20%に落ち込んだままである。マンパワーだけではなかなか生活復興は難しい。政府の公的支援と対策が必要だ。
 しかし、国政選挙が実施されてもなかなか投票率が上がらない。法治国家で、議院内閣制をとる日本では、まずは投票率を上げ、住民が声を上げることが必要と感じた。マスコミは「震災を忘れない」と繰り返しているが、現在、被災地で起こっている問題はなかなか報道しない。
 3日目は福島県飯舘村と南相馬市を訪問。飯舘村には、除染作業で出た汚染物が、袋に包まれ、各地で山積みのまま。永遠に続くと思ってしまう除染作業。田畑の農業の復興はもう途絶えてしまうのでないかと危惧してしまう。
 南相馬市にある大町病院を今回も訪問させていただいた。2年前に訪問した時、病院長・猪又義光先生にうかがった「調剤薬局、薬剤師がいなかったら病院の再建はなかった」という言葉がよみがえる。兵庫協会では、9月12日に開催した講演会「災害と薬剤師」で、猪又先生の言葉を紹介したところ、現役薬剤師の方々や薬学部学生に、薬剤師の役割に確信を持てたと受け入れていただいた。猪又先生にこのことを伝えると、深く喜んでいただいた。
 南相馬市では市民病院に脳血管専門の科が新設されるらしく、看護師不足が深刻という。しかし、逆境を乗り越えて、患者さんの健康のために「質の高い医療提供」をめざす、猪又先生や藤原珠世看護部長の姿勢は、兵庫の地域医療にも結びつくものだと思った。
 これまで何度か被災地を訪問してきたが、今回初めて聞くことも多かった。今まで我慢されていた思いが表れはじめたのでないかと思われる。これからが正念場だと思う。主権在民、基本的人権尊重の憲法理念のもとに、兵庫協会が関われることは何かを再検討して、議論を重ねて、改めて被災地に向かいたいと思う。

2015年9月24日木曜日

東日本大震災 現地レポート

兵庫県保険医協会は9月21日から22日、岩手県・宮城県・福島県の被災地を訪問、白岩一心理事、広川恵一顧問、松岡泰夫評議員、林功先生が参加した。
現在の生活・健康課題を中心に、今後の協力課題を明らかにするため、仮設住宅や医療機関などでお話を伺った。

宮城県気仙沼市の赤岩牧沢テニスコート仮設住宅で、民生委員の小野道子さん(前列左から1人目)、医療コーディネーターの村上充さん(後列左から2人目)、同仮設住宅自治会長(同3人目)にお話を伺った。住まいの問題が中心課題となっており、仮設の集約化に伴う引っ越し費用の問題、津波被害を受けた土地の換地処分における住民の軋轢、災害復興住宅で、引き渡し時に畳一面にカビが生えていたことなど、実態をお聞きした。
福島県飯舘村の農地には除染後の廃棄物が幾重にも積み重ねられていた。

福島県南相馬市の大町病院にて猪又義光院長(奥左)、藤原珠世看護部長(奥右)からお話を伺った。災害時の初動のあり方や、日常的にスポットで全国からの看護師の応援を継続して受けていること、病院内で看護の質の向上に取り組んでいることなど、現状をお話いただいた。猪又院長は、医療人としての使命感が原動力となっていると語った。

2015年7月29日水曜日

東日本大震災 現地レポート

 兵庫協会は7月15日、東日本大震災被災地である福島県飯舘村・南相馬市を訪問。広川恵一顧問が参加し、住民や医療関係者から現状について伺った。

飯舘村では除染後の廃棄物が至る所で山積みされていた


南相馬市・大町病院にて現状と課題をお話しいただいた
(左から)藤原珠世さん、広川恵一兵庫協会顧問、若松丈太郎さん、生田チサトさん

東日本大震災被災地支援・地域交流 被災地物産展を開催

 兵庫県保険医協会西宮・芦屋支部は7月25日、東日本大震災被災地への支援と地域交流のための物産品販売・展示会を広川内科クリニックで開催した。
 岩手県宮古市の「復興プロジェクト かけあしの会」からは岩手県田老町漁協わかめや、アワビなどの物産品販売とともに、ホタテ焼きなどの実演販売を行った。岩手県藤沢「ちくちく工房」からはバッグなどを販売した。

ホタテ焼きの実演販売

物産品も好評を博した

西宮市借り上げ復興住宅問題についてビデオ上映

 

2015年3月15日日曜日

東日本大震災から4年 まちなみと住民の生活再建を

東日本大震災から4年
まちなみと住民の生活再建を
兵庫県保険医協会理事長 池内 春樹

 今年は阪神・淡路大震災から20年、東日本大震災から4年の節目の年である。
 阪神・淡路大震災では、「借り上げ復興住宅から20年の契約期間が経ったから退去してほしい」と自治体から要求され、高齢になった被災者はせっかくできた地域の絆がなくなるので困っている。
 東日本大震災では8万3千棟もの仮設住宅がいまだに使われている。住宅地の少ない三陸地方の特殊性はあるにしても、政府が率先して自治体と協力し、復興住宅を速やかにつくるべきだ。阪神・淡路大震災でも経験したが、劣悪な住宅環境では高血圧、糖尿病、高脂血症など、ストレスによる病気の新たな発症や増悪が3人に1人に起こっている。
 兵庫協会では、東日本大震災発生直後から、今まで30回以上にわたって「被災者に元気を」との願いで、被災地訪問を続けている。
 東日本大震災のもう一つの問題が原発事故だ。被ばくを恐れて兵庫県に避難されている家族がおられる。避難者健診も、兵庫県民主医療機関連合会と協力して行っている。原発の速やかな廃炉と除染が求められる。
 震災関連死を増やさないためにも、まず生活の基盤である住宅の復興が必要だ。また、生活再建のためには仕事が必要だ。仕事や住宅がないため、被災県からの人口流出が続いている。
 復興予算で長大で巨大な防波堤を造るのでなく、子どもたちの未来のために、地域のまちなみと住民の生活を再建してほしい。これこそが、阪神・淡路大震災を経験した兵庫県民としての願いである。創造的復興ではない、「人間の復興」を求めて、連帯のメッセージとしたい。

2015年2月25日水曜日

原発事故・県内避難者に健康診断

健康不安・悩み受け止める

 福島第一原発事故による県内への避難者に寄り添い、その健康管理に寄与しようと、避難者を対象とした健康診断が、2月11日に姫路医療生協共立病院で開催され、福島県などから避難してきた15家族40人が受診した。協会の森岡芳雄理事、辻一城理事が小児科の診察を行い、山中忍理事がスタッフとともに、初の眼科検診を実施した。

 避難者健診は、兵庫県民主医療機関連合会(民医連)が半年に一度、実施しているもので、今回で4回目。民医連からの協力要請を受け、協会役員が毎回、診察に参加している。
 県西部での開催は初で、姫路市やたつの市に居住の家族が多数受診した。受診者の半数以上が小児のため、レクリエーションコーナーを設ける、健診をスタンプラリー形式にする、避難者の方同士が交流できるような場を設けるなどの工夫がされた。健診内容は、問診、身長体重計測、診察、血液検査、心電図、検尿、甲状腺エコー、眼科検診。
 健診終了後は、受診者に将来にわたって自分の健康管理に役立ててもらえるよう、「私の健康記録ファイル」を渡している。3月上旬頃に結果を送付し、4月上旬には結果相談会が予定されている。
 終了後のスタッフの感想交流では、「受診者に被曝による健康への不安が強いのを感じた」「健診は無事終わったが、これからの結果の判定と返しが大切」などの声が出された。

2015年1月25日日曜日

阪神・淡路大震災20年 神戸と西宮でメモリアル企画

阪神・淡路から東日本・原発事故へ――
語り合い経験つなげる

 協会は、震災20年となる1月17日、神戸でメモリアルシンポジウム「巨大災害と人権保障」、西宮で「20年の集い 阪神・淡路大震災―東日本大震災―原発事故」を開催。あわせて400人が参加し、企画を通じて震災からの20年を振り返った。
 神戸会場では、ライターの古川美穂氏、住江憲勇保団連会長、武村義人兵庫協会副理事長、ひょうご福祉ネットワークの正津房子氏の4氏が講演。「創造的復興」の名のもと震災に乗じて「大資本が食い物にする」被災地の実態、協会・保団連の粘り強い運動によって公的保障を勝ち取ってきたこと、高齢化が進む復興住宅入居者の窮状、被災者に寄り添った復興の大切さが語られた。
 西宮会場では、「震災経験を語り継ぐ・風化させない・新たなつながりを拡げる」ことを目的に、阪神・淡路および東日本大震災についての報告や、京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生と映画監督の鎌仲ひとみ氏の特別講演・対談、被災地の医療・社会保障を考えるパネルディスカッション、心肺蘇生実習コーナー、震災の記録展示、被災地の物産品展など、さまざまな企画が行われた。

西宮会場「20年の集い」
東日本・原発事故と結びつけ人権と社会保障を考える

 協会と協会西宮・芦屋支部が、西宮市役所東館で開催した「20年の集い 阪神・淡路大震災―東日本大震災―原発事故」には、医師・市民ら340人が参加した。
 京都大学原子炉実験所助教の小出裕章先生と映画監督の鎌仲ひとみ氏が、原発事故に対する電力会社・政府やマスメディアの責任問題、市民一人ひとりが原発をなくすために行動することの大切さなどついて対談した。
 西宮市・広川内科クリニック院長の広川恵一先生が、阪神・淡路大震災における開業医師と保険医協会の取り組み、ボランティア・看護師の役割などにつ
いて、福島県南相馬市・大町病院院長の猪又義光先生と看護部長の藤原珠世氏が、東日本大震災において医療拠点病院として果たした役割と、復興に向け多職種で協力した震災後の取り組みについて、それぞれ報告した。
「被災地の医療・社会保障を考えるパネルディスカッション」では、青森市・大竹整形外科院長の大竹進先生、元岩手県立高田病院院長の石木幹人先生、岩手県立高田病院臨床心理士の行本清香氏、元宮城県気仙沼市立本吉病院院長の川島実先生、松島医療生協松島海岸診療所歯科の井上博之先生、福島医療生協いいの診療所所長の松本純先生が、東日本大震災がもたらした被害・人格権侵害や被災者の健康状態、復興に向けた取り組みなどについてそれぞれの立場から発言。
 東京都中野区・中村診療所院長の中村洋一先生は、阪神・淡路大震災ボランティアの経験から作成した「災害時医療対策マニュアル」や「中野区医師会災害対策本部」の取り組みについて報告した。
 兵庫県災害医療センター顧問の鵜飼卓先生は、阪神・淡路大震災以後の災害医療体制の改善点と今後の課題について、日本福祉大学名誉教授の金持伸子先生は、公営住宅における高齢化問題などについて報告した。
 心肺蘇生実習コーナーでは、西宮市・ユニコの森・村上こどもクリニックの村上博先生、西宮市・あしだこども診療所の芦田乃介先生とスタッフが、市民に懇切丁寧な実習を行った。
 講演の合間には二胡奏者の劉揚氏が「南相馬市民の歌」などを演奏した。