震災復興と神戸医療産業都市構想に関して、フリーのルポライターである古川美穂氏から協会へ取材要請があり、4月6日に武村義人・川西敏雄両副理事長が対応した。翌7日、同氏の取材に同行した川西副理事長のレポートを掲載する。
神戸の医療産業都市構想と被災者救済
副理事長 川西 敏雄
古川氏は雑誌『世界』への掲載原稿作成のため、神戸に取材に訪れた。テーマは「東北メディカル・メガバンク構想」であるとの由。過去の文献を照会したところ、同じような例は神戸の医療産業都市構想しかあがらなかったと来神された。前日の取材で、復興事業や医療産業都市構想の概要と問題点についての説明を受け、7日は市内関連施設を訪問した。
訪問場所は、①ポートアイランドにある計11カ所の医療産業都市の関連施設、②新長田のアスタくにづか1~6号館、近隣の二葉町近辺の商店街、③西区の神戸テクノロジスティックパークである。
①ポートアイランドの医療産業都市の関連施設は、そもそも「阪神・淡路大震災からの復興のため」(ひょうご経済第63号、神戸市震災復興本部総括局 三木孝氏)と位置づけられたとされている。しかし、医療人の私にとっても、中で何をやっているのか全く分からない。一般の市民には、なおのこと分からないであろう。これらは被災者には全くといっていいほど関係がない形となっている。
②新長田訪問では、阪神・淡路大震災後再開発の対象とならなかった二葉町付近をまず歩いた。昔ながらの小さな商店が並び、古川氏は「本当に下町で、昭和の匂いがしますね」と言われていた。それに比して、アスタくにづかなど再開発で建設されたハコモノであるビル施設は「全く被災者の顔の見えない復旧復興」と感想を話されていた。
③西区の神戸テクノロジスティックパーク(旧・神戸複合産業団地)は武村副理事長の一押しの取材ポイント。広大な平地が存在するが、実はここの山を削った土砂が、ポートアイランドの埋め立てに使われた。
古川氏は東日本大震災被災地でのギャンブル依存症の問題を取り上げた著書『ギャンブル大国ニッポン』(岩波ブックレット)も書かれており、生活保護受給者らを市民が監視するという小野市福祉給付制度適正化条例の成立についても憂いておられた。
また、古川氏からは、東日本大震災からいち早く立ち直ったという町・岩手県重江の話も伺った。復興成功へのヒントとしては、住民の自主性を尊重し方向性を決めそれを自治体・国が後押しするという図式が背景に感じられた。
私自身、阪神・淡路大震災が直撃した地元・神戸に暮らしているが、ルポライターである古川氏の目を通してでなければ、今回のように客観的な視察ができなかったと思う。古川氏の言を借りると「復旧・復興に名を借りた“ショックドクトリン”的な被災者軽視の政策が浮かび上がる。今回の原稿に生かしたい」。
神戸の医療産業都市構想は被災者のためにほとんど役に立っていない。借上げ住宅追い出しなどの事実は、東北メディカル・メガバンク構想の将来をうらなう一つの反面教師であろう。
阪神・淡路大震災から抜け出せない人々を、兵庫県保険医協会は今なおサポートし続けている。